第2話「ナルシスト帽子屋とひねくれ三月兎」
アリスは目の前の奇妙な光景を不思議に思いながらも、
散乱している帽子を拾った。
「はい、帽子」
さすがに2対1だったので、拾うほうが進んだ。
つまり、最終的には(アリスが)拾い終わった。
そして、結構な量の帽子を男に渡した。
「おやおや、これは素敵なお嬢さんだ」
「なんだよ、つまんねー」
「それじゃ」
と、その場を去ろうとしたときのこと、
「あいや待たれよ、お嬢さん」
「・・・何か?」
「手伝ってもらっておきながらお礼がないのは失礼だろう?」
「別に手伝って欲しいなんて頼んでないけどなー」
「キミがほいほい捨てなければ良かったのだよ」
「・・・・う」
「漫才を見ているヒマはないのだけれど」
「これは手厳しい」
と、男は苦笑しながら帽子を深く被りなおした。
「じゃ、どっか行けばー」
『誰が引きとめたんだ、誰が』と思いながら、アリスは踵を返す。
「私の名はエールリース。しがない帽子屋です」
シルクハット。上着は着なくてシャツにネクタイ、たくさんのシルクハットが描かれた奇妙なズボンをはいている。
栗色の髪は長く、一つに束ねられていた。
「・・・アヴェンジュリス」
「なっげぇ、名前」
「コラ!この子はエリオット。ひねくれ者の私の相棒です」
バサバサの短い金髪に簡易な運動のしやすそうな服。
帽子屋とは違い気を使っていなさそうだった。
『そろそろ解放して欲しい』と願うアリスの気持ちとは裏腹に、
帽子屋・・・エールリースは、アリスの手を引いてどこかへ連れて行こうとする。
「あの・・・何か?」
「お礼と言っては何ですが、お茶会への参加権を、と思いまして」
そう言いながらも、エールリースはアリスを連れてすたすたと歩いていく。
あのひねくれた青年―エリオットは、ただ何も言わずにエールリースに着いていた。
「さぁ、ここです!」
と、連れて行かれた場所には長机が一つと、イスがいくつか放置されていた。
そして、その机の上には数多くのティーカップとティーポットが並んでいた。
「他にも誰か来るんですか?」
不覚にも訊ねてしまった。
彼と話している暇も興味もなかったので、早々に立ち去ろうと思っていたのに。
そんなアリスの心情を読み取ったのか、エールリースはにやにやとアリスを見ていた。
「普段は私とエリオットの二人です」
「・・・普段は?」
「今日は貴女という素晴らしい華のあるゲストがいらっしゃる」
どうにも、エールリースのペースにノせられている気がするアリスは、
不信感いっぱいの疑いの眼でエールリースを睨みつけた。
「・・・おやおや。綺麗なお嬢さんがそのような顔をするのは感心しませんよ?」
「あなたのような遊び人に言われたくありません」
さすがのアリスもエールリースの態度に腹がきて怒りの表情を見せた。
しかし、言われた本人はと言うと一瞬驚いた顔をした後、自身の帽子を顔に引き寄せて、
顔を隠すようにしてから、ついには大笑いを始めてしまったのだ。
「っく、はは・・・あははははははははは!!」
「?!」
突然の大笑いに、アリスは驚いてエールリースを見た。
エールリースは本気で大笑いしているようで、涙まで浮かべていた。
何故エールリースが笑っているのか分からなくて、アリスは「?」を頭に浮かべていた。
「くくく・・・はぁ・・・笑った、笑った・・・」
やっと落ち着いたのか、肩でゆっくりと呼吸をしていた。
「・・・貴女は、私を『遊び人』と評した。そうですね?」
すると、唐突にそんな質問をしてくるのだった。
「えぇ・・・そうよ」
「それでは、逆の問いを致しましょう。『遊び人』の逆とは?」
「勿論『真面目な人』、でしょうね」
「いやはや、残念。全然合っていませんよ。間違いだらけのカビキノコです」
意味の分からない返答に、アリスは戸惑った。
それでは、一体逆とは何なのだろうか。
「気になりますか?『遊び人』の逆・・・」
腹の立つことに、気になってしまった。
この男の言う、『遊び人』の逆・・・。
「それは・・・」
一呼吸置いて、エールリースは帽子を被りなおして言った。
「『遊ばない人』、ですよ」
意外な素っ頓狂な答えに、アリスは呆然としてしまった。
そのまんまと言えば、そのまんま。
いやしかし、確かに逆と言えば逆の答えになってしまうのだった。
「さてはて、答えも分かったところでお茶を飲みましょう」
そう言って、アリスをイスに座らせる。
そして、目の前にカップを置いてお茶を注ぐ。
その一連の動作を、アリスはぼぉーっと見ているだけだった。
「飲まないのですか?せっかくのお茶が冷めてしまえば台無しですよ?」
「あ・・・あぁ、ごめんなさい」
「元々冷たいお茶を飲むつもりならグラスに注ぎますが、カップに入った温かいお茶が冷たくなるのは気持ち悪い」
そう言って、エールリースはぶるぶるっとまるで、気味の悪いものを見たかのように身震いして見せた。
「お前、結局飲むの?飲まないの?はっきり決めろようっぜぇーなぁ」
さっきまでずっと黙ってお茶の準備をしていたエリオットが口を開いた。
こんなところでゆっくりしている暇はないのだ。
早く時計を、あの白い少女に渡してやらねばならないのだから。
「せっかく淹れてくれたところ悪いけど急いでいるから」
そう言ってアリスは立ち上がり、お茶会の開かれていた小さな広場を出ようとした。
「それでは貴女は冷たいお茶をお望みだと。それならば行くと良い。いつでも待っているよ」
「別に来なくていーぞぉー」
何か、皮肉を言われた気がしたが気にせずアリスは去っていった。
「それにしても奇妙な人達・・・」
だが、アリスはまだ知らなかった。
アリスに伸びる邪悪な手を。
「ふぅん・・・あれがアヴェンジュリス。表から裏へと堕ちた不運なコイン・・・」
赤毛の男は微笑んだ。
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帽子屋はよく分からない男bPに降臨します。
というか、まず2人の行動が謎だ。
まず、アリスじゃなきゃ対応できない。