第3話「気まぐれ猫は謎々が大好き」



広場を抜けてから、そう時間も経っていない。

が、困ったことに道はアリスの前で二手へと別れてしまっている。

しかも、示す看板などはいっさいない。

『どうしたものか・・・』そう思いつつも、気持ちは急いていた。


「右に行けば豚小屋が、左に行けばトランプが」


突如聞こえてきた声に驚いて辺りを見回す。

しかし、辺りには誰一人としていなかった。


「地面を見ればゴマ粒が、空を見ればマシュマロが、木の上見れば気まぐれ猫が」


思わず言われた順に見てしまった。

すると、木の上に赤毛の青年が座っていた。

分かれた道のつなぎ目に一本生えている、大きな木の上に。


赤毛の髪は耳元まであり、手入れが行き届いていて艶やかだった。

しかし、その耳にはピアスなるものがいくつもついていた。

服装も派手で、何より赤と黒の入り混じった色彩が目に痛かった。


「ゴマ粒って蟻のことかしら、マシュマロは雲?」

「あらあらご名答。頭良いんだ、ふぅん・・・」


青年はまるでアリスを馬鹿にしているかのように鼻で笑いながら答えた。

その態度にアリスは腹が立ち、ふんぞり返って言った。


「木の上から見下ろすのは失礼じゃない?」

「失礼じゃないよ?だって、お前は見下ろされるべき存在だからさ」

「何を言っているの?」

「だって俺は何でも知ってる。けれど、お前は何にも知らない」


それが、失礼に値しない理由だとでも言うのだろうか。

『そんなもの間違っている』、そうアリスが言おうとしたとき、


「いつも飄々しているのに本当は性悪て、なーんだ?」

「・・・人?」

「惜しいね。『人』ならその逆もしかりだからね。答えは『俺』」

「は?」

「あぁ、お前からしてみれば『あなた』や『きみ』、二人称で答えるのが正解かな」


突然の意味の分からない質問と解答に、アリスは半ばついていけないでいた。


「固有名詞で『チェシャ猫』とか『チェリーシャ・ネキリーコ』って答えてもかまわないけど、知らないでしょ?」


自然と自己紹介されてしまった。

それにしても、一つ引っかかるのが


「チェシャ猫・・・?」

「そ。チェリーシャの『チェ』と『シャ』。ネキリーコの『ネ』と『コ』で猫なのさ♪」

「・・・」


言葉を失うほかなかった。

なんと返せば良かったのか、正直分からなかったから。

だが、はっとして、自分が名乗っていないことに気づいた。

アリスは、自分の名前を紡ごうと口を開こうとした、


「ア「アヴェンジュリス・・・でしょ?」

「なん「何で知ってるのかってぇ〜?そんなもの、内緒だよv」


アヴェンジュリスの言おうとした言葉はことごとく男―チェリーシャに見透かされてしまった。

にっこりと極上の笑みを浮かべたチェリーシャは、「よっと」と掛け声をつけながら木の下へと

ストンと降り立った。


「あ、そうそう。もうすぐしたら女王様の素敵な素敵な発表会があるんだよ」

「発表会?」

「という名のただの自慢したい会だろうけどね」


皮肉を込めたその言葉に、アリスは少々気になった。


「自慢って何を自慢なさるのかしら?」

「さぁ。女王様の新しいドレスなりなんなりとりあえず女王様の存在そのものの自慢会なんじゃない?」


そういえば、ここに来たとき花達がしきりに言っていた。

女王様に逆らえば死がある、と。つまりは、女王様というのはそういう人なのだ。

しかし、アリスは別に女王様に用があるわけではない。

つまり、進む道は・・・・・・そう思って足を右の道へと進めた。


「ん?豚小屋行くの?」

「あなたの言う豚小屋が何か知らないけれど、女王様のところへ行くよりマシだわ」

「あぁ、なるほど。女王様より豚の方が会いたい、と」


『別にそういうつもりでは・・・』そう思いながらも、アリスは否定しなかった。


「トランプがどうして、女王様に繋がるって分かった?」

「・・・生憎、あなたの言葉はヒントになんてしてないわ」

「?」

「あれだけ大きな城が見えるもの・・・分かるわよ」

「・・・・・・なーるほどね」

「それじゃ、さようなら」

「会えると良いね・・・白い姫君に」

「!!そこまで・・・そうね。会えると良いわ」


そうすれば私のこのくだらない人達に付き合う冒険は終わるのだから。

そうしてアリスは豚小屋とやらへの道を強く強く踏みしめて歩いた。



チェリーシャは木の下で、木にもたれながらくすくすと笑っていた。

その視線には、豚小屋の道を選び進むアリスの姿があった。


「白兎は女王様の言いなりだって、教えてあげた方が良かったのかな・・・ま、イヤだけど」


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チェシャ登場。
個人的にはとても好きな子ですよ。