第2話「街と森の境」
街は賑わい、王が倒れたことなどまるで知らぬようだった。
エクレは、それに少し胸を痛めた。
王が亡くなっても、この国は、この街は変わらず賑やかなのだろう。
それが、とても辛く、寂しかった。
「・・・賑やかね。とても、良いことだわ」
「お嬢、皆、心の中ではとても心配していますよ」
「そうね。えぇ、そうよね・・・」
エクレの表情が暗く沈んでいくのを、アルテは何とか明るくしようと、
さぁ、行きましょう!とエクレをワザと急かした。
街(の門)と森の境には、大きな川があり、森へ行くには橋を渡らなければ
ならない。
「な、何よ・・・これ・・・」
「そういえば、工事中だと大臣が言っていたような気もします」
「アールテェェェェェ!!!!」
「はぃぃ?!」
「どーして、そんな重要なことを覚えてないのよぉ!」
「いえ、まさか街を出ることになると思ってもいなかったんで耳の右から左へ・・・」
「アンタ、それでも私の側仕え?!」
「え、関係ありますか?」
「大アリじゃ、ボケェェェ!」
ハリセンでもあれば、エクレはアルテの頭を思い切りソレで、はたいていただろう。
しかし、ないものはない。よって、アルテのみぞおちに綺麗に打撃が加えられた。
「ごふっ・・・お、お嬢・・・モロ・・・モロに入っ・・・ぅ、ぐ・・・」
「どうするのよ?!これじゃぁ、街から出れないじゃない!」
エクレは頭を抱えてしゃがみこんだ。街から出られないのでは、何も始まらない。
いきなり行き詰ってしまったのだ。アルテはもう腹は平気になったのか、何か手は
ないかとキョロキョロと辺りを見まわした。
「とりあえず、どのくらいかかるのかあそこの兵に聞いてきます」
アルテは橋の工事の前で警備をしていた兵士の元へと走っていく。
しゃがみこんだままの、エクレは途方にくれながらもよろよろと立ち上がった。
(どうしよ・・・のこのこ城に帰ったらまたお母様に計画性がないって叱られるんだわ)
が、故にエクレは何が何でも帰ることはできなかった。
たとえ自分の国の街の宿に泊まることになっても、むしろそれが良いと言えるくらい。
母であり王妃のヴィルベッタ=エシュリー=マストロエ。
王と並ぶほどの敏腕政治ぶりを発揮しつつ、こと教育に関しても恐ろしいくらいに厳しい。
日々、エクレも泣き言を漏らしては叱られていた。
城を抜け出しては、アルテを連れてのんびりと過ごしていた。
すると、見つかってからがまた地獄。長い説教から始まり、いつもの倍の課題提出を
求められる。エクレにとって母は「叱られたくない」対象そのものなのだ。
「お嬢ー!」
アルテが呼びながらこちらへ走って帰ってくる。
「どうだった。百歩譲って3日以内なら許す」
「あー、残念。早くて後3ヶ月はかかるみたいです。ほら、この橋でかいから」
「どぅすんのよ!!」
「あのー、お嬢」
「何?」
「本当に街を出たいですか?」
「当たり前よ!お父様の容態は原因不明が故に一刻の猶予もないのよ?!」
「分かりました。じゃぁ、少々手荒になっても許してくれますね」
「もちろん!何か手があるのね!」
「一応は・・・」
「さっすが、アルテ!さっすが、私の側仕え!」
「い、いえ、お嬢のためとあらば・・・」
アルテはへへ、と誇らしげに照れている。実は、アルテは気にしていた。
大臣の話をきちんと聞いていなかった故にエクレに不快な思いをさせたこと、
確かに側仕えとして最低だと恥じていた。
「さ、アルテ行きましょ」
「はい。じゃぁ、準備があるので少し待っていてもらえますか?」
「準備?・・・分かったわ。どのくらいかかるの?」
「1時間もかかりません。しばし、お側を離れることお許し下さい」
「分かった、待ってるわ。なるべく急ぎでお願いね」
「はい、お嬢!」
アルテは大げさに頭を下げて、走って街へと戻っていく。
日陰を見つけて、エクレはそこへ座り込んだ。
そよそよと風が吹き、耳を澄ませば川の流れる音がする。
心地よい空間で、エクレは自然と目を瞑った。
*****
礼節のできる男が剣を振るえば、それはただの「いい男」だ!
そんな側仕えでは面白みがない!頭だって良い必要はない!(必要、あるかもしれません;
ということで、生まれたのがアルテです。
犬のようにエクレに従い、極道のように気合のある男です。