第3話「川を渡る」
第3話「川を渡る」エクレが目を開けると、眠気などすぐに吹っ飛んだ。
見知らぬ大男が数人、自分を囲んでにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「な、何・・・」
「お嬢さん、この街の子か?それとも、俺達のように旅人かい?」
「旅人・・・あんた達どう見てもただの野党だわ」
エクレがそう吐くと、男達はそろって大笑いした。
そして、またにやりと不気味に微笑んだ。
「元気があるのは良いことだと思うぜぇ?」
「そうそう。気に入られる良い条件だ」
「あんた達に気に入られても何も嬉しくないわ」
じりじりと近づく男達に、エクレはじりじりと後ずさった。
逃げるタイミングを伺うが、囲まれているせいでどうにも無理そうだ。
(あー、もう!アルテの馬鹿!どうしてこんな時にいないのよ!)
「ぐあっ!」
男のうち一人が、悲鳴を上げて倒れた。
男達は何だと後ろを振り向くが、それと同時に強い力で投げ倒されていく。
囲まれて見えなかったエクレの視界は、すっかり晴れて、アルテの姿を捉えていた。
「てめぇら、誰に対しての無礼だ」
「ひぃっ・・・な、何だ・・・何だお前・・・」
「うるせぇよ」
アルテはがっと、リーダーであろう男の腹を勢いよく蹴り上げた。
「がはっ!!」
「二度とお嬢に近づくな。次はねぇ」
アルテが、左肩にある大剣の柄を掴むと、男達は早々に悲鳴を上げて、
逃げて行った。
「アルテ・・・」
「もぉぉぉぉぉぉぉぉしわけありませんっっっ!!」
アルテはエクレに深々と頭を下げた。
いつものことなのだが、アルテはこういう時の気迫がものすごい。
主であるはずのエクレでさえ、うっとたじろいでしまう。
「いくら安全な国とはいえ、お嬢を一人にするべきではありませんでした!」
「そ、そうね。これから気をつけましょ、これから」
「お、おぉぉ嬢に何かあったら俺は・・・俺は・・・死んで詫びます!」
「何かありたくないから、アンタがいるんだけどね」
「!!・・・そうですよね。すみません・・・」
アルテはしゅん、と犬でたとえるなら耳と尻尾が垂れ下がった状態になった。
エクレはとにかく話題を変えようと、アルテの持っていた荷物をひったくった。
「で、準備っていうのは何なの?!整った?!」
「え、あ、はい!お嬢、これを・・・」
アルテはひったくられた荷物を返してもらい、その中から
薄茶色いローブを取り出して、エクレに手渡した。
そうして、同じようなローブをアルテも身に着けた。
「何故?」
「え、その・・・あの・・・まぁ・・・」
「まぁ、いいわ」
エクレがローブを身に着けたのを確認して、アルテはエクレを案内した。
橋の下へと降り、そして工事用に設置されているボートに乗った。
「・・・は?!」
「わゎ、お嬢。あまり大きな声を出さないで」
そうして、二人はまんまとボートを盗んだ。
アルテは器用にオールを操作してボートを漕ぐ。
「ちょっとー!これ、どういうことよ」
「これしか手がないんですよ。許してください」
「普通に貸してくださいって言えば良いじゃない」
「・・・王女命令とでも言ってですか?」
「それは嫌」
「でしょ?だからですよ。一般人に工事用のボートなんか貸せるはずがない」
「だからってこんな・・・泥棒みたいな・・・」
「みたいなっていうか、まんま泥棒です」
「な、おい!ボート誰が使ってる!」
「泥棒だ!」
「ボートが盗まれてる!」
橋の上で、工事に携わっていた人たちがボートを見つけざわめき始めた。
アルテはそれを察知して、スピードを速めた。
「うぅ、ごめんなさい・・・」
「しっかり掴まってて下さい。スピードを上げるんで相当揺れますよ」
アルテの言うとおり、ボートは激しく揺れた。
川を渡りきった時には、エクレはもうふらふらだった。
「もぅ・・・ダメ・・・ぅ」
「あ、お嬢!」
ふらふらと倒れたエクレをアルテが支え、木陰に座らせた。
タオルを川で濡らして、エクレの頬に当てると、気持ちよさそうにした。
「すみません、お嬢・・・」
「ううん。おかげで、川が渡れたわ・・・色々な犠牲の元に」
「すみません」
「ふぅ・・・もう、大丈夫。行きましょう」
「本当に大丈夫ですか?なんなら、俺がおぶって・・・」
「大丈夫よ。さぁ、行くわよ!森を抜けて、あの山の向こうに!!」
「あの、夢壊すようで申し訳ありませんが山の前には多分、色々ありますよ」
「この森を抜ければ後は街とかを繋ぐ街道でしょ?」
「・・・だといいんですが」
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王女の無謀な旅は今、始まりました。
皆さん、生温かい目で見守ってあげて下さい。
・・・・・・温かい目でお願いします。