第4話「道はどこへと続くのか」



第4話「道はどこへと続くのか」


エクレはどんどんと道を進んでいた。

どこへ、というのはなくただひたすらに。


「あの〜、お嬢・・・」

「何?」


アルテは痺れを切らしたのか、エクレに問うた。


「どこへ向かってらっしゃるんですか?」

「どこって・・・さぁ、知らないわ」

「やっぱり・・・」


一番当たって欲しくない、と信じていた答えが当たって、

アルテは心底落ち込んだ。だが、それでもエクレは歩を

休めようとしなかった。


「お嬢ー、やみくもに歩いても森は抜けられませんよ」

「あら?じゃぁ、アルテには道が分かるのかしら?ん?」

「そ、それを言われると・・・なんとも・・・」

「でしょ?だったら、変に立ち止まるよりは進んだ方がいつかはたどり着けるじゃない?」

「は、はぁ・・・」


同じ道を回っていなければ良いが、とアルテは心の中で呟いたが

今のエクレには通じないと察して口を噤んでエクレに付いて歩いた。



それから、どれだけ歩いただろう。間違いなく1時間は経っている。

だが、一向に森を抜けられる兆しは見えなかった。さすがに、エクレも

疲れたのか「休もう」と切り出した。


「さて、どうしようかしら?」

「・・・お嬢、しっ・・・」


そう言って、アルテは人差し指を唇に乗せる。

そして、何かを澄ますようにして耳に手を当てた。


「・・・何か、聞こえるの?」

「はい、わずかですが・・・水の流れる音ですね」

「川・・・そうよ!最初から川沿いを歩けば良かったんだわ!」

「・・・すみません。俺がいながら、気づきませんでした」

「何よ。私に先に答えを出されて悔しいの?」

「い、いえいえ。そんな滅相もない・・・情けない・・・」


最後の方はごにょごにょと濁しながら、エクレに聞こえないように漏らした。

そんなアルテを無視して、エクレは早く川へ、とアルテを促した。


アルテが聞いた音の方へ向かうと、そこは川――ではなく、滝であった。

滝と言っても、そう大きなものではなくアルテの身長くらいのもの。


「・・・滝かよっ!!」

「ぐふっ・・・」


エクレは見事なまでのエルボーをアルテに食らわせる。

アルテはしばらく腹を押さえて悶えていたが、痛みが和らいできたところで

機嫌を損ねたエクレの機嫌取りに入った。


「お、お嬢・・・他の水音を探しましょう」

「また滝だったりしたら、次は急所に蹴りを入れてあげるわ」

「っっ・・・もしくは、来た道を戻るとか」

「覚えてると思う?」

「ですよね・・・」


アルテは万事休すとも言えるため息を吐いた。

アルテのおかげで、少々スッキリしたエクレは物事をプラスに考えてみた。


「ま、水の補給くらいは出来るかしらね。アルテ」

「!!はっ、ただいま」


アルテはエクレに一礼をして、滝の水を両手の平ですくい、飲んだ。

そして、しばらく口に含みながら吟味し、判断して、飲み込んだ。


「はい、飲めます。それも、かなりの綺麗な水のようです。砂利や泥も少しも混じってない」

「へぇー、この透明度は嘘じゃないってことね。じゃ、私も頂こうっと」


その時、がさっと茂みが音共に揺らいだ。


「!!」

「?アルテ、どうしたの」

「お嬢、そこを動かずに。何かいます・・・」


アルテは左肩にある大剣の柄を握る。

ガサリ、と出てきたのは可愛らしい容姿の小さなモンスターだった。

『みー』と鳴いて、こちらへ寄ってくる。


「わぁ、可愛い。なんだ、全然心配することないじゃない。

 私はてっきり、熊くらいの大きさのモンスターかと思っ・・・」


エクレがそのモンスターに近づき、撫でよう手を伸ばしたとき、

その可愛らしいモンスターは突如牙をむき出し、エクレの手に

噛み付こうと飛び掛った。


ザクッ


エクレは咄嗟に瞑った目をゆっくりと開けた。

さきほどの可愛らしいモンスターは一刀両断されており、

青いような緑のような血を撒き散らして横たわっていた。


ぶんっ、と音がした方を見るとアルテが血のついた剣を

振って、付着した血を払っていた。最後には布でふき取って。

少し怒ったような目で、しゃがみこんだエクレに手を差し出した。


「あ、ありがと・・・」

「アイツはあの顔で相手を油断させて襲い掛かる奴ですよ」

「へぇー、そ、そうなの・・・騙されたわ・・・」

「お嬢、やはり貴女にこの旅は危険です。今からでも遅くない。帰りましょう」

「なっ、嫌よ!馬鹿言わないで!今更のこのこ帰って『モンスターに怖気づきました』

 って帰れですって?!そんなの絶対に嫌!!」


アルテの言葉にエクレは、さっきの恐怖もなく反論した。

アルテはやはり無理か、とため息を吐いた。


「お嬢・・・なんなら、俺一人で探します。ですから・・・」

「どうして?!アルテは・・・分かってくれたじゃない・・・アルテだけは・・・」

「・・・」

「いつも私の味方でいてくれたじゃない・・・」

「俺がどうしてこんなことを言っているのか理解できませんか」

「え?」


エクレはてっきり、アルテがいつものように「すいませんでした」と謝ると思っていた。

それは、初めてじゃないから。今のように我侭を言った時も、いつだって、アルテは

『エクレの味方』だった。だから、アルテの言うように、今は理解できなかった。


「お嬢、理解して下さい。お願いします・・・」


だが、エクレは理解も出来ないのに「帰れ」などと言われて、素直なほど良い子ではない。

それに、父を救い出すために偉そうな口を叩いて出てきた。

それを、のこのこと帰ることなどできないというプライドもあった。

だが、一番信頼していたアルテが・・・味方になってくれていない。


エクレの感情は色々なものが混ざっていた。

悲しみ、怒り、絶望。

そして・・・


「・・・ぃ」

「お嬢?」

「もう、アルテなんか知らない!!!!」

「?!」

「帰りたいならアンタ一人で帰りなさいよ!」

「ち、違います!俺は、貴女を・・・」

「うるさい!うるさい、うるさい、うるさい!!」


エクレはアルテの言い分を聞くことなく、続けた。

アルテに裏切られた、という悲しみで涙を流し、

アルテに裏切られた、という怒りで口を開き、

アルテに裏切られた、という絶望で言葉を続けた。


「アンタなんかいらない!どっか行って!私の目の前から消えてー!!」

「お、嬢・・・」

「早く!消えてよ!もういらない!知らない!アルテなんか大っっ嫌い!!」

「・・・お嬢」


落ち着け、と言わんばかりの目でエクレを見るアルテ。

それがさらに、癪に障り、エクレはアルテをギッと睨みつける。


「今すぐ私の目の前から消えなさい!いなくなりなさい!命令よ!!」


アルテはビクッと肩を震わせ、戸惑うような瞳をエクレに投げかけ、

そして、目を閉じてもう一度開いた目は、悲しみに満ちていた。


「お嬢がそれを望むなら・・・」


エクレはじっと見つめた。

森の奥に消えていくアルテの背中を。





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毎話、毎話、題を考えるのが辛い。
でも、欲しい。そんな矛盾。