第5話「イモのスープ」



第5話「イモのスープ」



エクレはぼぉーっと滝の側で座り込んでいた。

いるはずの人物がいない。

そんな、虚無感。


「アルテの・・・馬鹿・・・」


いつだってアルテは味方でいてくれたのに。

それなのに。どうして・・・?

そんな気持ちで一杯だった。


「・・・くよくよしてても始まらないわね」


エクレは立ち上がって、森へと進んでいった。



エクレを見つめる瞳が、森の中のひとつの木の影に、

隠れているとも知らずに。





・・・・・・・・・・・・・・・・。


それからどれだけの時間歩いただろう。

やっと森の中の村に着いた頃には、日はとうに沈んでいた。

それでも、この村の人たちは優しくて、

旅人であるエクレを温かく迎えてくれた。


「旅のお嬢さん、うちはこんなものしかありゃしないが・・・」


そう言って出てきたのは、温かそうなスープ。

エクレにはその温かさだけで、涙が出そうになった。

いつも、どれだけアルテに頼っていたのかよく分かる。



『お腹空いたー!!』

『お嬢、夕食まで後もう少しです。しばしの辛抱を』

『い・や!』

『・・・あなたって人は。仕方ありませんね』

『!!』

『イモのスープでかまいませんね?それなら少しくらい腹もちしますし』

『うんうん!』


そう。どんなにメイドや教育係の人間がエクレに注意を促そうと、

どんなに我侭を言って、他の人を困らせても、いつだって・・・


いや、むしろアルテの方が怒られていた気もする。


「っす・・・これ、美味しい・・・です・・・」

「おやおや、涙が出るほどお腹が空いていたのかい?」


優しいおじいさんは、「おかわりもあるよ」と優しく微笑んでくれる。

懐かしいイモのスープの味。温かい・・・優しい味。

どうしてあんな酷いことを言ったんだろう。

今更になって後悔が押し寄せる。


「っふ・・・アル・・・テ・・・」


アルテを捜そう。今ならまだアルテのことだ。

滝の付近で野宿でもしてるだろう・・・。

自分のことを、そう怒っていなければの話だが。

そう思い立ち上がったが、エクレの視界はグラリと揺れ、

重たい音ともに崩れ、倒れた。


「お嬢さん?!お嬢さん・・・」


おじいさんが必死に呼ぶ声だけが、こだまのように響いていた。










綺麗な花園に、大きな巨木。

そこに、一人の男が繋がれていた。


『ねぇー、あなたって「ざいにん」なの?』


みすぼらしい格好の男とは違い、花園に似合う綺麗なドレスに身をまとった

可憐な少女が、男の側にちょこんと座り込んだ。


『・・・子供?』

『ちょっと!私はこの国の王女よ!』


少女は立ち上がり、腰に手をあてて男に叫んだ。


『王女・・・。あぁ、エクソディアとかいう』

『そうよ。ねぇ、あなた「ざいにん」なんでしょ?』

『あぁ、そうだ。俺は「罪人」だ。だから、近づくな』


目をキラキラと輝かせる少女に男は冷たく言い放った。


『「ざいにん」って悪いことをした人のことよね?あなたは何をしたの?』

『たくさんの人を殺した。生きるためとはいえ・・・多くの人を・・・』


男は自分の両手をみつめる。

少女は、そんな男の目の前にまた、ちょこんと座り込んだ。


『・・・あなた、寂しい目をするのね』

『?』

『お友達がいないの?だったら、私がなってあげるわ』

『い、いや・・・俺には関わるな』

『私のことはエクレって呼んで良いわ。私が許す。あなたの名前は?』

『・・・ア、ルテ』

『アルテね!よろしくね、アルテ!!』


にっこりと少女―エクレは微笑む。

男―アルテもつられて、優しく微笑んだ・・・。




「アルテっ!!」

「きゃっ!!」

ばっと体を起こす。

そこには、アルテはいなかった。

代わりに、可愛らしいツインテールの少女がいた。


「あ・・・ご、ごめんなさい。私、夢を見てた・・・みたいで」

「アルテ?ってあなたの恋人?」

「え?!」


少女の言葉にエクレはぶんぶんと首を横にふる。

その反応に少女は「なぁんだ」とがっかりしていた。


「あ、あの・・・」

「あなた、倒れたのよ。覚えてない?」

「え、あ・・・そう、ですか」

「おじいちゃんも心配してたわ」

「あ、ごめんなさい・・・」


エクレが謝罪をすると、少女はにっこりと微笑んで「大丈夫」だといってくれた。

おじいさんも、もう寝たのだと言う。

とりあえず、明日改めて謝罪すれば良いとも少女は言ったので、

エクレもそれに従うことにした。


「あの、あなたが私の看病を?」

「えぇ、そうよ」

「ありがとう・・・えーっと・・・」

「ピコよ。ピコ=ウェルシー」

「エクレ・・・です」

「・・・ん?エク、レ?」

「え?あ、あの・・・」


突如、ピコは立ち上がり部屋の棚から一冊の分厚い本を取り出した。

そして、いくらかページをめくり、ちらちらと本とエクレとを見た。


「あ、あぁぁぁぁなた・・・マストロエ国第一王女・・・エクソディア様・・・?」

「え?あ・・・あの・・・」

「はっ!!分かったわ、お忍びね!お忍びなのね!!」

「え、えぇ!!そうなの。だから、このことは・・・」

「分かったわ。村の人には言わない。私達だけの秘密ね」

「た、助かるわ」

「ん〜、嬉しいわ。私、宮廷魔術師を目指しているの」

「そうなの?」


エクレにとって、自分を王女だと知って謙遜しない子は初めてだった。

同じくらいの歳で、同性の・・・これを、友達というのだろうか。

だとしたら、これはチャンスかもしれない。

友達、というものを作る。


「あ、あの・・・ピコ」

「なぁに?」

「わ、私と・・・その・・・お、友達に・・・」

「え?え、えぇ・・・良いの?私、村の一般人よ?」

「私、同じ年代の子で・・・そんな子・・・いなくて・・・」

「もももももちろん!!こっちこそ!!よろしく!!エクレちゃん!!」

ピコは大興奮で、エクレの両手をしっかり掴んだ。

エクレも、その両手をしっかりと握り返した。


「で、ね。エクレちゃんや」

「え?」

「アルテってだぁれ?」

「◇★▽◆☆▲†◇♪☆?!」

「おぉ、焦っちょる、焦っちょる」

「ア、アルテは・・・私の付き人で・・・その・・・道中喧嘩・・・
 
 というか、私が一方的にイラついて・・・命令で・・・消えろ、とか・・・」

「男よね?」

「え、えぇ・・・」

「ふぅん」


ピコはそれを聞いて、ニヤニヤとエクレを見る。

エクレはピコのその顔が何を指すのか察して、ぶんぶんと首を横に振り続けた。


「ち、違っ・・・アルテとはそんなんじゃ・・・」

「うっふふふふ、照れちゃって、エクレちゃんかぁわぃぃ〜」

「アルテは付き人であって、そんなんじゃ・・・」

「まっ、からかうのはこの辺にしときましょ。きっとエクレちゃんが倒れたのだって

 疲れが溜まってるんだわ。今日はもう一度ゆっくり休みなさいな」

「・・・ありがとう、そうさせてもらうわ」

「うん。おやすみなさい、エクレちゃん」

「おやすみなさい、ピコ」

ピコは去り際に、電気を消した。

そして、家の外へと出る。


「そこっ!!」


ピコが、手をかざしたところに発行物体が発生し、

一本の木の影に勢いよく放たれた。


「ちっ!!」

影からひとりの男が飛び出、その発行物体を叩き落とした。


「あなた、彼女が村に来たときから彼女についてきていたわね」

「詠唱なしで魔法を・・・お前、何者だ・・・」

「それはこちらのセリフね。ストーカーさん」


ピコは男の顔を確認しようとするが、月の明かりだけでは、

その顔はどうにも確認できなかった。





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恋沙汰に敏感な女の子がいたって良いじゃないか。
だって、女の子だもん(違う